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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)69号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いのない甲第二号証によれば、本件明細書(本件考案の出願公告公報)には、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のとおり記載されていることが認められる。

(一)  本件考案は、回転形往復運動をする揺動形アクチユエータに関するものである(第一欄第一〇行、第一一行)。

従来の、シリンダー内に嵌装したローターを油圧で駆動し、ローターのフランジ間に定着したベーンがフランジ間に挟設したストツパーに当接するようになしたシールレスタイプの揺動形アクチユエータにおいては、次のような問題点があつた。

(1) ストツパーがシリンダー内壁に完全に固定されていたため、一方のフランジがストツパーの側面に強く押し付けられ、出力トルク低下を招くだけでなく、焼き付きを起こして回転しなくなる不都合が生じた。

(2) 各部品の寸法誤差を組立てに際して調整することができなかつた。

(3) 組立てに当たつて、各部品の直角度の累積公差をカバーすることができなかつた。ことに、このアクチユエータにあつては、ミクロン単位の誤差まで問題になるが、このような誤差を生じさせないという要求を満たす高精度の組立てをすることは不可能であつた(第一欄第一二行ないし第二欄第一七行)。

本件考案は、これら従来の揺動形アクチユエータにおけるローターの回転上の問題点及び組立上の難点を克服した揺動形アクチユエータを提供することを目的とするものである(第二欄第一八行ないし第二〇行)。

(二)  本件考案は、右技術的課題(目的)を達成するため、本件考案の要旨とする実用新案登録請求の範囲記載のとおりの構成(第一欄第二行ないし第八行)を採用したものである。

(三)  本件考案は、右構成により、ストツパーがシリンダー内壁に固定されずに一定の範囲内においてフリーの状態に保持されているから、十分な組立精度が得られるとともに、ローターの円滑な回転を保証し得るという作用効果を奏するものである(第四欄第一七行ないし第二一行)。

2  原告は、審決は、本件考案と第一引用例記載のものとの構成の差異を看過、誤認した結果、第一引用例記載のものが本件考案における構成要件(ハ)「シールレスタイプの揺動形アクチユエータ」を具備していると誤つて判断した旨主張する。

そこで、第一引用例記載のものの技術内容について、検討すると、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、シリンダー1(本件考案におけるシリンダーに相当する。以下同じ。)内に収納した(嵌装した)回転体4(ローター)のフランジ2、3間に(フランジ間に)扇型仕切体8(ベーン)を固着し(定着し)、作動流体の圧力により(油圧により)回転体4(ローター)が回転することにより扇型仕切体8(ベーン)がフランジ2、3間に(フランジ間に)挟設したストツパー10(ストツパー)に当接するようになしたシールレスタイプのトルクアクチユエータ(揺動形アクチユエータ)において、ストツパー10(ストツパー)をシリンダー1(シリンダー)内壁に固定状態に突設した(保持した)トルクアクチユエータ(揺動形アクチユエータ)が記載されていることが認められる。

したがつて、本件考案と第一引用例記載のものとは、シリンダー内に嵌装したローターのフランジ間にベーンを定着し、油圧により、ローターが回転することによりベーンがフランジ間に挟設したストツパーに当接するようになしたシールレスタイプの揺動形アクチユエータにおいて、ストツパーをシリンダー内壁に保持した揺動形アクチユエータである点で一致し、ただ、本件考案はストツパーが非固定状態にあるのに対して、第一引用例記載のものは固定状態である点において相違すると認められる。

この点に関し、原告は、本件考案は、ローターがラジアル軸受によつて確固と支承され、もつてシリンダー内壁とフランジ及びベーンとの間のオイルリークを生じない範囲の間隙保持が確保されていることにより実現される揺動形アクチユエータであつて、第一引用例記載のものはこのような構成を具備していない旨主張する。

しかしながら、本件考案の前記(ハ)の構成要件は、「シールレスタイプの揺動形アクチユエータ」と規定するのみであつて、実用新案登録請求の範囲には、原告主張のような構成の限定は存在せず、第一引用例記載のものが本件考案のようにシールの配設されていないタイプのアクチユエータであることが明らかである。

しかも、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、従来から、一般に使用されているトルクアクチユエータについて、「回転体はラジアル軸受で支承したものであるため、軸方向のスラストに対しては何らこれを阻止する作用を持たず、そのため回転体に取付けた仕切板がシリンダーの側部蓋体に強く当接し、回転動作を止めてしまうという欠点があつた」(第二欄第三行ないし第八行)ので、「この考案は前記の欠点を払拭するため、気密構造のシリンダー内部に所定の間隔でフランジーを並設した回転体を収納し、(中略)前記フランジーの側部と当板間にスラスト軸受を介在することにより、組立作業の簡易化を計るとともに軸方向のスラストを防止し回転体の円滑な動作を維持し、かつ高圧に耐えられしかも量産化により廉価に提供することができるものである。」(第二欄第一一行ないし第二〇行)、「いま図面によりこの考案にかかるトルクアクチユエータの実施の一例を詳述すると、気密構造のシリンダー1の内部に所定の間隔でフランジー2、3を並設した回転体4を収納し、フランジー2、3間の空胴部5には両側に切欠6、7を設けた扇型仕切体8を嵌合してこれを両フランジー2、3を貫通して挿入したピン9で固着し、この仕切体8はシリンダー1の内壁に突設したストツパー10と当接するようになし、このストツパー10を跨いでポート11、12をシリンダー1に穿設するとともに前記フランジー2、3の側部と当板13、14間にスラスト軸受15、16を介在したものである。なお図面中17はストツパー10の固定用ねじ、18はラジアル軸受、19はOリング、20はピン9の貫通孔、21は当板13、14の調節ねじ。」(第二欄第二一行ないし第三五行)と記載され、第1図には、回転体4を支承するラジアル軸受18が図示されていることが認められる。

右認定事実によれば、第一引用例記載のものは、回転体をラジアル軸受で支承した従来のトルクアクチユエータに、さらに(右回転を支承する)スラスト軸受を付加したものということができ、従来のトルクアクチユエータについての前記「回転体はラジアル軸受で支承したものであるため、軸方向のスラストに対しては何らこれを阻止する作用を持たず」の記載からみて、ラジアル軸受を具備していることにより、回転体のラジアル方向の保持が十分なされているということができる。このことは、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、ラジアル方向の支持が十分でないことによる技術上の問題点は掲げられていないし、その構成上ラジアル軸受で支承しないことによつて生じるフランジ及びベーンとシリンダー内壁との間隙からのオイルリークを防止する手段は何も施されていないことが認められることからも明らかである。

そうすると、第一引用例記載のものは、シリンダー内壁とフランジー扇形仕切体(ベーン)との間隙が右ラジアル軸受によつて確保されており、そして、この間隙はオイルリークを生じないものというべきであるから、この点において本件考案との間に構成上の差異は生じない。

したがつて、第一引用例記載のものは、本件考案と同一のシールレスタイプの揺動形アクチユエータであるとした審決の認定に誤りはない。

3  次に、原告は、審決は本件考案と第二引用例記載のものとの技術的課題、構成及び作用効果の差異を看過誤認した結果、第一引用例記載のものに第二引用例記載の、ストツパーを非固定状態に保持した構成を適用して本件考案の構成を得ることは当業者がきわめて容易になし得ることであると誤つて判断した旨主張する。

そこで、第二引用例記載のものの技術内容について検討すると、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、「外側シリンダーは、ボデイーとそれを密封する為のカバー2、3からなり、ピストン5、6及びベーン7はボルト10、ピン12及びナツト13によりピストンロツド4に固定されていて一体構造となり、シリンダー内部の旋回、直線運動が一緒に行なえる様になつている。旋回運動用ベーンのストツパー8は、ピストン5、6との間にあり、ボデイーに固定されたピン9により直線運動のみ行い、旋回運動は行ないえない様になつて居り、ピストン5、6との間には、ある程度のスキマが保たれて居り楽に動ける様になつている。」(第二欄第二八行ないし第三欄第二行)と記載され、右記載と第1図及び第3図を併せ検討すると、旋回運動用のストツパー8は、ピストンロツド4に固定された二つのピストン5、6の間におかれていること、該ストツパー8には、その外周面に軸方向の直線状溝を有しており、ボデイーに固定されたピン9が該直線状溝に嵌合されていること、ピン7は該ストツパーが軸方向の直線運動のみが可能であつて、旋回運動は行い得ないような嵌合状態であること、二つのピストン5、6との間には、ある程度の隙間があり、楽に動けるようになつているものであることが認められる。

また、第二引用例の右記載事項を前記1認定の本件考案の構成と対比すると、第二引用例記載の「ボデイ1」、「ピストン5、6」、「ピストン5、6及びベーン7がピストンロツド4に固定されて一体構造となつたもの」、「(旋回運動用)ベーン7」、「ストツパー8」は、本件考案の「シリンダー」、「フランジ」、「ローター」、「ベーン」、「ストツパー」にそれぞれ相応し、該各部材によつて揺動形アクチユエータを構成し、かつ、第二引用例記載のピストンの内部に内蔵された旋回運動用シリンダーの機能は揺動形アクチユエータの機能に相応することが明らかである。

そして、第二引用例記載のストツパー8が軸方向の直線運動が可能であるということは、ストツパー8の直線状溝とピン9との間に僅かではあつても隙間が存する(その結果、該ストツパーは変位可能となつている)ことを意味することは、技術上自明であり、したがつて、該ストツパー8はスラスト方向のみに変位可能となつているのではなく、ラジアル方向、円周方向にも僅かながら変位可能の状態で保持されているというべきである。

以上の認定事実によれば、第二引用例には、ボデイ1(シリンダー)内に嵌装した、ピストン5、6及びベーン7がピストンロツド4に固定されて一体構造となつたもの(ローター)のピストン5、6(フランジ)間にストツパー8(ストツパー)を挟設した揺動形アクチユエータとしての構造、機能をもつ複動シリンダーにおいて、該ストツパー8をシリンダー1内壁に非固定状態に保持した構成が示されているということができる。

ところで、この種揺動形アクチユエータにおいて、ストツパーが固定状態であるとすると、ローターにスラスト荷重がかかつた場合、回転体の一方のフランジがストツパー側面に押しつけられてローターが回転しにくくなることは、その技術内容からみて当業者に自明のことである。

第一引用例には、従来のトルクアクチユエータにおいて、ローターにスラスト荷重がかかつた場合について、「回転体は、ラジアル軸受で支承したものであるため、軸方向のスラストに対しては何らこれを阻止する作用を持たず、そのため回転体に取付けた仕切板がシリンダーの側部蓋体に強く当接し、回転動作を止めてしまうといつた欠点があつた。」との記載が存することは、前記2認定のとおりであり、この記載からみても、第一引用例記載のもののような、回転体に並設されたフランジに、固定ストツパーを嵌合した構造を持つアクチユエータにおいては、ローターにスラスト荷重がかかつた場合、ローターがストツパーに当接することは明らかであつて、この場合ストツパーがローターの回転を阻止する作用をなすことは当業者には当然のこととして理解されるというべきである。

してみると、揺動形アクチユエータにおいて、ローター(回転体)のフランジがストツパーに当接することによつてローターの回転が阻止されるという問題点を解決することは、当業者にとつて本件出願時における揺動形アクチユエータの持つ技術的課題であつたということができる。

揺動形アクチユエータに右のような技術的課題があるとすれば、右のローターがその回転を阻止されるという右問題点を解決するための技術手段は、当業者によつて当然考慮されるべき事項であり、その場合、右ストツパーの固定状態を緩和すること、あるいは解除することが右問題点を解決するための一手段であることは当業者にとつてきわめて容易に考えつく程度の事項である。

そうであれば、第一引用例記載のトルクアクチユエータにおいて、フランジがストツパーに当接するのを阻止するために、第二引用例に示された、揺動形アクチユエータとしての構成、機能をもつ複動シリンダーにおいて、ストツパーを非固定状態にした構成を採用することは当業者がきわめて容易になし得る事項であるというべきである。

そして、本件考案の奏する本件明細書に記載された前記1認定の作用効果は、揺動形アクチユエータにおいて、ストツパーをシリンダー内壁に非固定状態に保持したことにより生じたものであるから、これと同一の構成を有する第二引用例記載のものの奏する作用効果にほかならない。

この点に関し、原告は、第二引用例記載のものは、本件考案とは解決しようとする技術的課題、課題解決の指向を異にしている旨主張する。

本件明細書には、本件考案が前記1認定の揺動形アクチユエータにおけるローターの回転上の問題点及び組立上の難点を克服した揺動形アクチユエータを提供することを技術的課題(目的)とすることが明記されているのに対し、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、本件考案のような技術的課題が直接記載されていないことが認められる。

しかしながら、本件考案における右技術的課題は、シールレスタイプの揺動形アクチユエータのみに固有のものではなく、揺動形アクチユエータ一般に共通の課題として当業者に認識されていたと解されることは前述のとおりであるから、そのことをもつて第一引用例記載のものに第二引用例に示されたストツパーを非固定状態にした構成を適用することが当業者にとつてきわめて容易になし得ることを否定する根拠とすることはできない。

また、原告は、第二引用例記載のものは、本件考案のようなトルクアクチユエータではなく、軸方向への直動を重視して構成された複動シリンダーであつて、そのような動きを予定していない本件考案とはその構成が本質的に異なつており、本件考案における前記(ハ)、(ニ)の構成要件を欠く旨主張する。

しかしながら、第二引用例記載の複動シリンダーは、前記認定のとおり本件考案における揺動形アクチユエータに相応する構成及び該アクチユエータと同様の機能を持つており、そこで用いられているストツパーは、「旋回運動用ベーンのストツパー8」と記載されているように、揺動形アクチユエータとして機能する場合に用いられるものであつて、第二引用例記載のものが本件考案の前記(ニ)の構成要件を具備していることは明らかである。

また、本件考案の前記(ハ)の構成要件である「シールレスタイプの揺動形アクチユエータ」は第一引用例に示されており、審決は、この第一引用例記載のトルクアクチユエータに、第二引用例に示された前記(ニ)の構成要件「ストツパーを非固定状態にすること」を適用することが当業者にとつてきわめて容易であると判断したものであるから、第二引用例記載のものが右(ハ)の構成要件を具備するかどうかは問題にならないことである。

さらに、原告は、本件考案は、「ストツパーがシリンダー内壁に固定された一定の範囲内においてフリーの状態に保持されているから、十分な組立精度が得られるとともに、ローターの円滑な回転が保証される」という作用効果を奏するのに対し、第二引用例記載のものは本件考案の前記(ニ)の構成要件を具備していないため、このような作用効果を奏し得ない旨主張するが、第二引用例記載のものが本件考案の前記(ニ)の構成要件を具備していることは前記認定のとおりであり、そうであれば、第二引用例記載のものも右構成によつて奏する本件考案の右作用効果を奏することが明らかであつて、原告の右主張はその前提において誤つており、採用することができない。

したがつて、第二引用例記載の複動シリンダにおける揺動形アクチユエータの、ストツパーを非固定状態に保持したピストン、ベーンとストツパーの関連構成を、第一引用例記載の揺動形アクチユエータに適用して本件考案の構成を得ることは当業者がきわめて容易になし得ることであり、その適用の結果格別な効果を生じない、とした審決の認定、判断に誤りはない。

4  以上のとおりであるから、本件考案は第一引用例及び第二引用例記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとした審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

シリンダー内に嵌装したローターのフランジ間にベーンを定着し、油圧によりローターが回転することによりベーンがフランジ間に挟設したストツパーに当接するようになしたシールレスタイプの揺動形アクチユエータにおいて、ストツパーをシリンダー内壁に非固定状態に保持したことを特徴とする揺動形アクチユエータ

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